既 巻 | 巻終日 | 一座 | 宗匠・執筆 |
白き風の巻 | 平成21年12月3日 | 三吟=影左、不易、濤青 | 濤青 |
絵手紙の巻 | 平成21年10月12日 | 三吟=影左、不易、濤青 | 影左 |
単足袋の巻 | 未完 | 三吟=影左、不易、濤青 | 不易 |
初日見ての巻 | 平成21年3月10日 | 三吟=影左、不易、濤青 | 濤青 |
各がの巻 | 平成20年12月1日 | 三吟=影左、不易、濤青 | 影左 |
葉裏の巻 | 平成20年9月30日 | 三吟=影左、不易、濤青 | 不易 |
松茸にの巻 | 平成20年2月20日 | 三吟=影左、不易、濤青 | 濤青 |
賀茂の宮 | 未完 | 山穂、影左、不易、涛青 | 山穂 |
鶯の鳴き出で | 平成19年6月1日 | 影左、不易、山穂、涛青 | 不易 |
冬の鍋 | 平成19年2月19日 | 涛青、影左、不易、山穂 | 影左 |
龍胆 | 平成18年11月6日 | 山穂、涛青、影左、不易 | 涛青 |
日照り鯒 | 平成18年8月10日 | 不易、涛青、山穂、影左 | 山穂 |
宵の風 | 平成18年6月23日 | 影左、山穂、不易、涛青 | 不易 |
春の宴 | 平成18年4月22日 | 影左、山穂、不易、涛青 | 影左 |
雪積む宿 | 平成18年3月1日 | 山穂、影左、不易、涛青 | 涛青 |
毛糸玉 | 平成18年2月1日 | 山穂、不易、涛青、影左 | 不易 |
露草 | 平成17年10月26日 | 山穂、影左、不易、涛青 | 涛青 |
初鰹 | 平成17年7月22日 | 山穂、影左、不易、涛青 | 山穂 |
春の宵 | 平成17年5月24日 | 不易、山穂、影左、涛青、 | 不易 |
桜海老 | 平成17年3月9日 | 不易、山穂、影左、涛青、 | 涛青 |
去年の雪 | 平成17年1月28日 | 不易、山穂、影左、涛青、 | 涛青 |
野分 | 平成17年2月3日 | 不易、山穂、海市、涛青、瑞菜 | 海市 |
白南風 | 平成16年6月24日 | 不易、山穂、海市、涛青、瑞菜 | 山穂 |
幼子 | 平成16年3月29日 | 不易、山穂、海市、涛青、瑞菜 | 不易 |
さんま | 平成15年12月15日 | 不易、山穂、海市、涛青、瑞菜 | 瑞菜 |
さわさわ | 平成15年10月17日 | 不易、山穂、海市、涛青、瑞菜 | 涛青 |
筍 | 平成15年7月23日 | 不易、山穂、海市、涛青、瑞菜 | 海市 |
水温み | 平成15年4月14日完 | 不易、山穂、海市、涛青、瑞菜 | 山穂 |
鐘遠 | 平成15年2月7日完 | 不易、山穂、海市、涛青、瑞菜 | 不易 |
河岸灯り | 平成14年12月27日完 | 不易、山穂、海市、涛青 | 涛青 |
いわし雲 | 平成14年12月4日完 | 不易、山穂、海市、涛青 | 海市 |
たっぷり湯 | 平成14年8月20日完 | 不易、山穂、海市、涛青 | 山穂・不易 |
雲雀 | 平成14年皐月14日完 | 不易、山穂、海市、涛青 | |
葱白 | 平成14年如月18日完 | 三吟;不易、山穂、涛青 | |
行く道の巻 | 平成11年12月末日 | 海市、不易、山穂、涛青 | |
迷い猫の巻 | 平成11年10月3日 | 海市、不易、山穂、涛青 | |
山の端 | 平成11年9月末日 | 正棋、不易、弾寒、麗枝、涛青 | |
猩猩の巻 | 平成10年2月4日 | 海市、不易、山穂、涛青 | |
虫の音の巻 | 平成9年10月末日 | 海市、不易、不知、山穂、麗枝、涛青 | |
「春疾風」 | 不易、涛青両吟 | ||
「春宵」 | 不易、涛青両吟 | ||
「藤豆」 | 不易、涛青両吟 | ||
「セインズベリー」 | 不易、涛青両吟 |
不易・濤青両吟
初折り 1立句 春 人に会ふ思ふ明日は春疾風 不易
(表) 2脇 (花)春 三日と待てぬ花のありかは 濤青
3 春 青き雲時間に消さるる掲示板 易
4 雑 新しき靴紐結び直して 青
5 (恋呼出)夏 密やか海峡越える夏の終り 易
6折端 (恋) 秋 肌のほてりに秋の風過ぐ 青
(裏) 7折立 (紅葉)秋 もみじ葉巻き上げ倒し樵飯 青
8 秋 軒の秋雨そぞろ夜咄 易
9 (月・萩)秋 有明の袖うち払らう萩の露 青
10 (猪・鹿)雑 猪口才なるや鹿苑の法師 易
11 (華)春 破れ笠レンゲかざして村の辻 青
12折端 春 セピア色した春雷の頃 易
名残り 13折立 春 野にしばし抱えて帰る蓬草 易
(表) 14 (桐) 雑 箪笥の底に褪せし押し花 青
15 (月)秋 夢覚めて手枕寂し夕の月 易
16 (旅)秋 セーヌ河畔に落ち葉敷き伏す 青
17 秋 古き酒遠寺の鐘や秋の暮れ 易
18折端 雑 祝儀袋の数を数える 青
(裏) 19折立 (松)春 孫集い我が身の丈識る松の内 青
20 (蝶)春 胡蝶結びの千代を籠む杖 易
21 春 若菜摘む乙女を見しやデジャ・ビュ 青
22花前 雑 裏の扉の暗き仄影 易
23 (花)春 そこな人一緒におじゃれ花のもと 青
24挙句 春 虫の這い出る今日の春日に 易
涛青・不易両吟
初折り 1立句 (春) 春の宵いま一刻の人多し 涛青
(表) 2脇 (雑) 酒代はずむ帰る客連 不易
3 (春) 早駕籠をしばしとどめん花の本 青
4 恋呼出(雑) 懸想仕掛ける公達の鼻 易
5 恋(雑) 笠のうち口元微笑む八瀬乙女 青
6折端 (雑) 今日のあがりと一升の塩 易
(裏) 7折立 (夏) 夕凪の羽音短き蠅が背中 易
8 (雑) 京の騒乱ゆめのまた夢 青
9 (秋) 一騎駆月下遥々額桔梗 易
10 (秋) 褒美は芋の講釈師 青
11 恋(秋) あめの魚焼いて励ます寄席の花 易
12折端 (雑) 絹のしとねにわが子あやして 青
名残り 13折立 (冬) 木枯しのほかはありけり門の外 青
(表) 14 (雑) 何生業て過ごす二つ家 易
15 (秋) 薄野に月を据え置きまた豆腐か 青
16 (秋) 嵯峨野に籠る萩の僧正 易
17 (秋) 壺振りてコオロギの声灯はジリリ 青
18折端 恋呼出(冬) 時雨て更くる一人占い 易
(裏) 19折立 恋(雑) 漫ろなる想い偲ばす旅の先 易
20 (雑) 固い団子は他所に回す 青
21 (春) 雪解水日がな日がなに粉を挽く 易
22 花前(春) めぐりめぐりて複春逢 青
23 (春) 訪ね来し花の明日に人逝きて 易
24挙句 (春) 転けて見上げる青い青い空 青
濤青・不易両吟
初折り 1立句 夏 藤の豆ゆらり揺らして風通る 濤青
(表) 2脇 (恋呼出)夏 襲の色や薄衣の更え 不易
3 (恋)雑 糸染めの蘇芳滲みつ文を読む 青
4 冬 灰汁桶うつす木枯しの晩 易
5 (月・旅)雑 異国にて辛き仕事に月仰ぐ 青
6折端 雑 忍びて探る草の仕置に 易
(裏) 7折立 春 畑打つや動くともなし老農夫 易
8 春 ペントハウスにレンゲ育てる 青
9 (恋呼出)春 行く春や髪を束ねし鏡の前 易
10 (花・恋)春 いつか戻らむ花散る峠 青
11 (旅)雑 旅にありて故郷へ向く雲に会い 易
12折端 雑 黄金の館もいかにせん 青
名残り 13折立 (菊)秋 いと軽き小さき柩に白菊の香 青
(表) 14 秋 露の先引く盲目の犬 易
15 秋 秋刀魚焼く門を訪なうじょんがら節 青
16(恋呼出・月)秋 熾火火照れる楕円秋月 易
17 (恋・盃)冬 行儀よし炬燵の上の盃ふたつ 青
18折端 冬 本所の雪の別れ名残に 易
(裏) 19折立 (桐)雑 大人下駄つかえて往生幼足 易
20 (松)雑 松の根方で出る大あくび 青
21 夏 夏風邪はどちらがひいた寒山子 易
22花前(恋呼出)雑 そっと手渡す渡来の白粉 青
23 (恋・花)春 あい見てず偲ぶる頃や花のかげ 易
24挙句 (梅)春 鳴く鶯に猫の髭切る 青
不易・濤青両吟 1995.5.29
(表)初折り 1立句 夏 草いきれセインズベリーのマヨネーズ 易
広告コピーのようですが、まずは発句。「牡丹過ぎ紅葉敷きつめ菊 の秋」は露骨ですのでやめました。
2脇 (玉)雑 羊の群は白い玉になり 青
スコットランドの草原を思わせる景。早くも神器狙か。
3 雑 子を寝かしパオで煎じる塩団茶 易
草原を夜のモンゴルに移す。団茶は保存のきくように
堅く加工された半発酵茶。満点の星の下、ゲルの回り
に集められた羊とゲルから立上るゆっくりとした煙。
一日を終え悠久の大地に抱かれ憩う遊牧の一家を謳っ
て静か。団茶は“丸”で前句の玉の打ち消し。よって
前句の役は取り消してはどうか。
4 (月・刀)秋 月下刃光り枯れ野を疾駆す 青
安寧の夜を切り裂く騎馬、白刃を月光に光らせ、チン
ギス・ハーンの軍団が西を目指す。この勢いは誰にも
止められない。玉に次いで刀も手中に。
5 (鏡・松)秋 露に舞う老い松見立ての鏡板 易
快進撃の軍団を敗軍に置き換える。最後の一戦を前に
月下、背後の松を舞台の鏡板にみたてて一差し舞う将。
悲壮感と幽玄美が調和して秀。「玉」「剣」を流して
反対に「松」でリーチ。
折端 6 (恋出・桐)夏 不自由なけれど庭の桐切る 青
昔娘が生まれると桐を植える風習があった。嫁入りの
箪笥を作るため。前句の人物を、裕福な人物に仕立て
嫁入りの時節の到来をしみじみと思う。当然恋の呼び
出し。桐でこちらも対抗。
(裏) 折立 7 (恋・旅)雑 永遠の誓いむなしく沈むトレビの泉 青
呼び出しは受けねばならない。新婚旅行であろうか、
永遠の愛を誓ったコインを沈めたローマの泉を一人訪
れる傷心の旅。いつもながら小気味よい転調の句で、
裏入りはこうでありたい。
8 雑 洗い晒しのリーのジーンズ 易
『ローマの休日』を夢見て訪れたアメリカ娘がイタリ
ア男に騙された体。セインズベリーに続くメーカーシ
リーズ。
9 花前 雑 ニキビタバコポマードもみあげはや40年 青
前句はもっと恋離れしてほしかった。50年代は、ジ
ーンズの似合うヒーローがいた。其れをまねした頃も
あった。はや40年が経つ。花は付けにくいだろうな。
10 (花) 春 花の降り敷く雑貨屋の路地 易
ニキビ薬をはじめ、煙草、整髪料、剃刀、なんでも商
って40年。開店当時の裏庭の桜もたいそう大きくな
った。今年は花びらが小さな庭や路地を覆い尽くして
いる。述懐の中にしめやかな情緒を秘め、小店の主の
心情を捕らえて秀逸。ついでにジーズも扱っていると
打越になるので衣料品屋とは一線を画す。
11 (恋呼出)春 立ち寄れば薺の原や筒井筒 青
よんどころない旅にでていた男か。子供時代を過ごし
た裏店の路地を訪れてみると、ナズナ(ペンペン草)
の原に代わっていた。幼なじみのあの娘はどうしただ
ろうか。役に惑わされなければ、このような秀句がで
きるものを。恋の呼出。
折端 12 (恋)春 帰鴛欠けたる皿の染付け 易
鴛鴦は冬季ですが「帰る」で春。「欠けたる」は雄の
いない意味と五つに割れたという井戸茶碗に掛けまし
た。また、「皿」は「筒井」に掛けて一枚「欠けた」
番町皿屋敷。井戸から出るのは「お菊さん」だが菊は
役無し。残念。夫の帰りをひたすらまっていた妻も鬼
籍。古井戸の端の陶片が空しい。
名残り 折立 13 雑 水底の潮に曳かるる四つの船 易
帰朝を目前に難破した遣唐使船の積荷から、困難な旅
と待つ者の悲しみを知る。ほとんど役離れ。この方が
伸びやかだが、そうもいってはいられない次は狙う。
14 雑 濡れ手の泡の三万両 青
損したか得したか、どうにでもなる遣り句。たまには
楽しまなきゃ。次は付けやすい気遣い。
15 夏 夕暮れて打ち水涼し菓子の折 易
料亭街か花柳界のたたずまい。談合か、政治家の寄合
いか。いづれにしても怪しげな三万両(菓子折)の話。
情緒の裏に社会の暗部を抉って鋭い。打ち水は雨では
ない。為念。
16 (恋呼出)雑 お里の知れる年季の挨拶 青
亭主を亡くした女が、挨拶に訪れるが、つい言の端に
出る言の葉。上臈言葉ととるか女郎言葉ととるかは次
の句次第。恋の呼出でリーチをかける。
17 (月・恋)秋 いでし子に面差し偲ぶ月の君 易
年に一度挨拶に訪れる里親の家。里子に出した子供の
成長の姿に、毎々似てくる月(黄泉の国)に帰った女
房の面影を重ねる。一説に曰く、かぐや姫には子供が
いた云々。それでもって季は秋。ついでに「いでし子」
の名前は「お里」。よって前句解釈は、毎年きまって
<年季>、名月の日にやって来る人<挨拶>が父親で
あることを、お里ちゃんは薄々感づいている<お里の
知れる>。
折端 18 秋 築山取り巻き秋の七草 青
前句は落語の竜田川みたいな解釈になって、句者の苦
衷が分かろうというもの。本句は、秋草が一面に咲き
こぼれる広壮な邸宅に住む主の姿が彷彿する。この主
はお菓子屋である。本人がそう言うのだから間違いな
い。苦労して創った「面差し」という銘菓が大当たり、
其れで繁栄の基礎をつくった。その時に一緒に苦労し
た鬼籍の職人のかみさんが、「偲ぶ」さん。その偲ぶ
さんが、久々に訪れ、大きくなった子供を紹介する。
いでし子にである。そこで思い出される銘菓「面差し」
これは現在製造中止で今の主力商品は「月の君」であ
る。事業で成功した主人が、苦労しかつ充実した日々
を懐かしみ、手入れも怠り秋草が生い茂るままにする
今日の無気力な様を活写して秀逸。こんな短い文字で
かくも深い意味を持つものかと感心させられる、とは
真っ赤な偽り。こうした遊びは、全体を貶めるので以
後御法度前。
(裏)折立 19 雑 木漏り陽に夢の跡見ゆ黄金堂 青
芭蕉の本歌取り。夏草を秋草に見立て、夢の跡を幻視
する現代人。ちゃんとした句もできることを示してお
かないとね。
20 夏 蝉の声落つ寺守りの膳 易
本歌取りには本歌取りと思ったのですが、例えば宮沢
賢治の「中尊寺青葉に籠る夕暮れの空ふるわせて蒼き
鐘なる」などは取りやすいかなと。しかし、前句に付
過ぎて噂になるのでやめました。場面の展開は劇的で
はありませんが、旅行者の視点を堂守りの日常に変え
てみました。粗菜の載った膳に木漏れ陽と蝉の音が重
なる午後の食事。ひとりとる食事ののどかさと寂しさ、
周囲の静けさも表現できればと付けました。
21 (恋呼出) 雑 馬の背や玩具忍ばす東下り 青
この寺の坊主は隅に置けない。本山の帰途には子供の
おもちゃを買ってくるとは。
22 (恋・花前)雑 逸るかよい路参勤の伴 易
昨年、江戸に残した妻子に再会する旅。殿様の一行は
一向に進まない。逸る気持ちと浮きとした気持ち、宮
仕えのもどかしさ。もっとも正妻であるかは疑問。
23 (花)春 前は海背に富士を負い花の塚 青
眺望の開けた絶景の地にある桜の古木。その根方で憩
っていると遥か下の道に行列がゆく。実朝の歌に一脈
通じた大らかな秀句。
24 挙句 春 苫家暮らしの菜の花の崎 易
岬を覆う菜の花に囲まれた苫家。漁のためにひとり家
族と離れてくらす漁師。苫家の裏の塚は先祖の墓でも
あろうか。今年も花につつまれている。さらりと春の
情感を詠んで良。挙句の軽快さをだした見本。