「古人曰く」連句の形式

連句「新都玖波」に戻る

目次
  • 「新都玖波」の形式
  • 句の役割
  • 句去と去嫌
  • 二十四句の編成
    発句、脇句、第三句、第四句、月の句、花前、花の句、挙句


    連句「新都玖波」の形式 二十四句

    初折 表(六句)

    「序」しずかになだらか かつ、しっかりと運ぶ

    1 第一句 立句(発句)正客
    2  二  脇     亭主
    3  三        相伴
    4  四
    5  五 (月の定座)
    6  六  折端

    裏(六句)

    「破」多少の興を起こしておもしろく

    7 第一句 折立(初折の裏入り)
    8  二
    9  三 
    10  四 花前の句
    11  五  花の定座(枝折の花)
    12  六 折端(花の綴り目)

    名残 名残りの表(六句)

    「破」変化に富み、おもしろく、華やかに

    13  第一句 折立(名残の折入り)
    14  二
    15  三
    16  四 月の定座 
    17  五
    18  六 折端

    名残りの裏(六句)

    「急」軽々とおさめる

    19 第一句 折立(名残の裏入り)
    20  二
    21  三
    22  四  花前の句
    23  五  花の定座(匂いの花)
    24  六  挙句

    句の役割

    目次に戻る

    初折 一巻の序に当たる為、なるべく穏やかに進行させる。

     正客(立句)、亭主(脇)、相伴(第三句)の位が見定められたあと、初折りの表から裏入り早々までは思案にわたらず尋常に付け運び、恋・述懐・無情・神祇・釈教・故事・本説、その他、縛る・切る・鬼・女など、目立つものは、 この間みだりに出さない。

    「名所・国・神祇・釈教・恋・無情・述懐・懐旧おもてにぞせぬ」 (式目歌)

    発句

      当季・当座を詠んで挨拶とするを席入りという。句姿つよく俳意たしかに作 る。余意余情を充分に含むをよしとする。一座・時・所・連衆にあわせた配慮が必要で、一巻興行の季節にかなった季 語をもち、完全に独立した形と想いとを持つことを要求される。 内容的には無制限で、神祇・釈教・恋・無情その他何んでも自由に詠ん でよい。ただし、重々しいもの、沈んだものは、一巻全体が重々しく沈んだものにな りかねない恐れもあるので、軽くさらりと詠みたい。

    「発句はその座の風景、時節相応、賓主の挨拶による事常の習也」(俳諧 無言抄)

    「一、発句の事は一巻の巻頭なれば、初心の遠慮すべし。二、句姿もたかく、 位よろしきをすべし。三、先師は懐紙の発句かろきを好まれし也。四、一座に 差合事思いめぐらすべし。発句のみに限らず、その心得あるべし。」(三冊子)

    脇句

    客の挨拶(発句)に答える亭主の挨拶の心をもって付けるのが本意とされる。したがって、脇句は発句と必ず同季に作る。出来れば同じ場所、同じ時刻が望ましい。長句(発句)、短句(脇句)相俟って景情を完備するのが脇の役割でもあり、二句一意になるよう添える事を“釣合”という。脇は発句と調子、用 語なども相応ずるようにすべきである。

    「発句は客人、脇は亭主の心持也」(連歌教訓)

    「脇の句の事、よく発句の心をうけて、其時節背かぬ様に一かどさはやかに可被遊候」(至宝抄)

    「脇、亭主の句のいへる所、即挨拶也。ほ句をうけて、つり合専にうち添て付る よし」(三冊子)     

    「脇は発句の残したる言外の意味を請て継也」(宇陀法師)

    脇の付けには五体(相対付、打添付、違付、心付、頃留り)あるが、付け方の違いだけで、発句を補い一体の美を創り出す目的は同じである。蕉門では前句の余情(匂)を重んじる立場から宣ら打添の付をよしとするようである。

    「脇に於て五つの様あり、一には相対付、二には打添付、三には違い付、四に は心付、五には心留り也。大方は打添えて脇の句はなすべき也」(連歌教訓)

    「貞徳老人の曰く、脇躰四道(上記五体は“心付ならぬ句あるべからず=心敬”との立場から脇の仕様は心付を除いて四道とした)ありと立ち侍れども、当時 は古く成て、景気を言添えたるを宣とす」(初懐紙評註)

    第三句

    転句。俳諧一巻における変化の始まり。発句と同じような句姿、句意にならぬ 心得が最も肝腎で、発句、脇句の境地から思い切って離れねばならない。また、第三句は一巻興行の歩を定める重要な位置にあり、“打ち越し”と“もつれ”を嫌うことはもちろん、物の本質をよく見て“丈高く転ずる”ことが要求される。したがって、発句、脇句の主客の挨拶という限定された場から、見目よく離れればよいというものでもない。但し、脇句で転じた形になっている場合は 転ずる必要はない。「に留め、て留め、にて留め、らん留め、もなし留め」が第三句の留めの常道。但し、一 発句、脇句の腰(終りの五文字、又は七文字)に“手”の字があった場合は“て留め”は用いない。

    一、発句の切字に推量や疑問を示す助詞、助動詞が用いられている場合 は“らん留め”は用いない。

    一、発句が「かな」という助詞で留められている場合は“にて留め”は 用いない。

    一、規定以外の助詞、助動詞あるいは体言、用言で留める場合もある。

    「第三の事、前の寄所は大方に候とも、一句の柄を長高く大様に遊ばされ候べく候。第三は大略、て留りにて候」(至宝抄)

    「脇の句に能付候よりも、長高きを本とせり」(連歌教訓)

    「師の曰く、大付にても転じて長高くすべし」(三冊子)

    「第三は転ずるを専とすれども、脇の句によるべし。違付、取なし付等の句の 時は、第三にて転ずるにおよばざる事也」(三冊子)

    第四句

      平句のはじまり。“やすく軽く付ける”のが慣例。一巻中特に軽い句を出す ところ。発句、脇、第三と気骨の折れる句がつづいた後で、また趣向を凝らした句を付けるのでは煩わしくなり、一巻の進行がかえって単調になる。これをさけるために古事、本説、本歌取り等の仕立てを嫌うのは勿論、“月”“花”の ような重要な句は出さない。

    「脇の句より引さげ、やすやすと付候を四句目振りという也」(連歌教訓)

    「おもきは四句目の体にあらず、脇にひとし。句中に作をせず」(三冊子)

    「春秋の季つづき、四句目にて花、月の句をすること、かならず有まじとの師 説也」(三冊子)

    月の句                            

    *月の定座は動かしても差支えない。一巻の行様、連衆間の譲合、興行の 季節などによる。

    「月は出るにまかせよ、花は咲くにまかせよ」(去来抄)

    *月の句は春夏秋冬どの季節の月でもよい。

    *発句が秋季である場合は原則として第三句までに月の句(秋の月)を詠 む。

    *月の定座で月の字を出すことが出来ない時(発句に月並の月などが使われて いる場合)は月の異名を用いる。

    *月は短句で出してもよいが、長句の方がまさる。

    *原則として月の定座で落月や無月の句を詠むことは慎む。

    *秋の句が続く場合(三〜五句)は、その中で必ず月の句を詠む。この月のな いのを“素秋”と言って忌む。ただし月の代わりが出ている時は、かえって素秋 にして他の季の時に“有明”など月の代わりを詠み込む場合もある。

    <月並の月> ムーンではなくマンスのこと。月に関連するまたは連想 させる句が定座やその近くに出た場合は、これを月の代わりとして付ける方法。

       宵闇はあらぶる神の宮遷し 芭蕉

       北より萩の風そよぎたつ  許六

        八月は旅面白き小服綿   酒堂              

    <思いあわせの月> どうしても月を詠まねばならぬ時、前句によっては付けにくい場合がある。この様な時は実際の月を詠まずともよい。

      堪忍ならぬ七夕の照    利平

      名月のまに合わせ度芋畑  芭蕉

    <投げこみの月>  月の字を助字のようにして使う方法。

       革足袋に地雪踏重き秋の霜 酒堂

       伏見あたりの古手屋の月  芭蕉

       更る夜の壁突破る鹿の角  曽良

      島の御伽の泣ふせる月   芭蕉

    花前

    *次の花の句に障らぬよう、花の句が詠み難くならぬよう注意する。

    *丈の高い植物や秋の字は控える。また、恋句を出してはならない。

    *次にくる花の光彩を奪わぬよう、軽い句が望ましい。

    <呼び出しの花>  一座の内に花を所望したい人がいる場合、前句で春季の句を出して花の句を望む方法。但し、理由もなく花を呼び出してはいけない。また、訳もなく自分で引き上げて花の句を作るのは無作法。

    花の句

    *花の句は一巻の飾りであり、特に珍重・賞翫される。

    *定座に用いる花の句は、春季で桜の花を詠む。この場合、必ず「花」の語を用いる。「桜」の語をもちいた場合は、指すものは同じでも“正花”とは見なされない。

    「花といへるは賞翫の惣名、桜は只一色の上也」(篇突)

    *月・花を結んだ句は一座一句まで。

       月と花比良の高ねを北にして  芭蕉 「阿羅野」雁がねもの巻

       此島の餓鬼も手を摺る月と花  芭蕉 「炭俵」振売のの巻

    この場合、月は四季にわたるので、花にひかれて一句は春季になるが、月と花の比重は五分五分にする。

    *花に桜を付ける事は元来は法度であるが、発句の花に実体がない場合(根なしの花)は、脇句に実際の桜を持ち出してもよい。但し、異例ではある。

       辛崎の松は花より朧にて  芭蕉
       山はさくらをしをる春雨  尚白

    *桜に花を付けた例は芭蕉出座の作品には見当らない。

    *桜・花を結んだ句は差し支えない。

       はなに泣く桜の黴とすてにける  芭蕉 「冬の日」炭売のの巻

    *花に吉野を、また吉野に花を付けない。これは付句が前句の噂になるのを嫌うからで、花にかぎらず心得るべきである。付けを嫌うのであるから打越になることも嫌われる。(他に、萩に宮城野、紅葉に龍田、茶に宇治なども同様)

    *句の中に花と吉野が詠みこんであるのはかまわない。

        花咲けば芳野あたりを欠廻   曲水 「ひさご」木のもとにの巻

        梅に出て初瀬や芳野は花の時  芭蕉 「雪まろげ」かくれ家やの 巻

    *短句の花は百韻では二つまで。歌仙では一つ。但し、好んですることでは ない。

       伏見木幡の鐘はなをうつ  荷兮 「冬の日」霜月やの巻

       花に符を切坊の酒蔵    芭蕉 「雪まろげ」温海山やの巻

    *月花一句のこと。月花の作者がダブったり、片寄ったりしないよう配慮が 必要。

    両吟の場合は一本ずつ分けあう。二つある花も内容的に同じような趣にならぬよう変化を付ける。

    挙句     

    *一巻の最後の句。短句。                    

    *前句にうまく付いていなくともよい。最後の一句での長考は一座の興が障るため、巧拙を考えず早く付ける。

    *興行にのぞむ前に、あらかじめ作っておいても差し支えない。

    *発句(正客)、脇句(亭主)は作ってはならない。

    *最初の一巡に執筆の句が入っていない場合は、執筆に作らせるべきである。

    *必ず春季の句を作る。春季の句が五句つづいていても季を変える必要はない。     

    *発句にある文字を避け、字余りを嫌う。

    *一巻の成就を喜び、あっさりと詠むことを心得とすべき。

    句数と去嫌
    ここに記載の方式は、百吟、歌仙(36)等のものですから、24句と短い場合には、あてはまらないと思いますが、その意味は全体の流れをスムースに行い、創意による変化を楽しむことにあるのだといえましょう。

    目次に戻る

    俳諧はすべて前に進む事をもって一巻を成就する。同じ場所や状況に停滞したり、後へ戻ったりすることは許されない。ために類似した詞や縁の深い物が続いたり、近づいたりすることを嫌う。それを避けるために生まれたのが句数と 去嫌である。

    「たとへば歌仙は三十六歩也。一歩も後に帰る心なし」(三冊子)

    句数=続けてもよい句の数、または続けなければいけない句の数。

    去嫌=同じ季や類似の事柄が重ならないように一定の間隔を設けた句の数。

    <一応の目安>

    春秋    同季五句去り、句数三句から五句まで。

    夏冬    同季二句去り、句数一句から三句まで。

    神祇・釈教   二句去り、句数一句から三句まで。

    恋       三句去り、句数二句から五句まで。

    述懐・無常   三句去り、句数一句から三句まで。

    山類・水辺   三句去り、句数一句から三句まで。

    人倫    原則二句去り、句数は自由。打越を嫌わない。

    異居所   打越を嫌わない。

    国名・名所   二句去り、句数一句から二句まで。

    同生類     二句去り、句数一句から二句まで。異生類は打越を嫌わ              ない。

    木類・草類   二句去り、句数一句から二句まで。木と草は打越を嫌わない。

    降物・聳物   二句去り、句数一句から二句まで。降に聳は打越を嫌わない

    同時分     三句去り、句数一句から二句まで。異時分は打越を嫌わない

    夜分      二句去り、句数一句から三句まで。打越を嫌わない。     

    蕉門では外的な形式よりも、内的な余情や匂いを重んじる故に、式目上の句数や去嫌については、季、花、月を除いては余り拘ってはいない。     

    「差合の事は時宜にもよるべし。まづは大かたにして宜し」(三冊子)

    <付け順>

    出勝(付勝) 発句以下一巡した後は、各句ごとに連衆すべてが付句を考え、執筆 に提出し宗匠が捌きながら進めるやり方。

    膝送り    あらかじめ一定の順序をきめて付け進めるやり方。

                                  (止)

    目次に戻る
    連句「新都玖波」に戻る