連句表紙頁

自己解釈

評者 涛青

首を長くしてお待ちいただきました新たな巻を始めたいと存じます。

1,暑さも遠のき、ひんやりとした風が肌に染み入る季節となりましたね。ご無沙汰をしておりますが、皆さまお元気でお過ごしのことと存じます。不易さまも順調にご回復のご様子、大変喜ばしい限りでございます。いよいよ新たな巻が始まり、とても嬉しゅうございます。宗匠さまをはじめ皆さま、どうぞ厳しいご指導を、最後までお付き合いをいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
それでは発句です。久しぶりなので頭のなかで句がグルグルしてしまい、遅くなりまして大変申し訳ございません。宗匠さま、いかがでございましょうか。山穂
発句いただきました。
いよいよ始まりました。
脇句は影左さんです。発句の主客をもてなす風情で、お願いします。
秋は3句続けます。

2,暑過ぎた夏もようよう去ってくれる気配が不易さまの回復にも良い環境を整えているようです。
前巻におきましては、皆様には手前の乱調によりたいそうご迷惑をおかけ致しましたが、今回の選挙で当選した小泉チルドレンの一人の若者議員のごとき未熟な振る舞いが続くやに考えると心配ですが、みなみなさまのよろしきご指導のもとにお引き立て頂ければ幸いにございます。
今年後半から来年にかけて仕事で数回にわたり,金沢に出かける事になりました。日本文化の華ひらいた地方都市らしい風情がここかしこに残って見えます。
ただ旅するだけでなく、時代の旅も出来るのが金沢かなぁーなんて思いつつ観光スポットとなっている武家屋敷跡あたりで土産物店を覗くと、誰の為にか土産を選んでいる観光客。その足を止めるように加賀百万石の雨が降ってきました。
影左
ひとり行く旅人に似合いの雨も、栗菓子で心和むことでしょう。
客人を迎える風情が見えてまことに結構です。
加賀の国は晴天が少ないところと聞いています。所もまた自然でよしですね。

3,宗匠さまご指摘のとおり、素秋を嫌って月と思ったのですが、迂生、この度は「匂いの花」を持たせていただいております。いかに厚顔とは言え、月花ひとりじめは如何にも憚られます。そこで、月の字は避けつつ月を匂わせ、あえて素秋とし定座にて他季の月がお詠み頂けるよう、式目引見しながら工夫してみましたが、如何なものでしょうか。

十六夜日記』の閲覧に、加賀の蔵書家を訪れた学者さん。時はあたかも仲秋の翌日。 手土産はどうやら栗の焼き菓子らしい。「弁当忘れても傘忘れるな」お馴染み北陸の雨で、ただでさえ「いざよう」月が、今日はすっかり顔を隠してしまっている。
因みにこの学者さんは、『十六夜日記』の注釈書『残月鈔』を著した江戸後期の国学者・小山田与清(おやまだ・ともきよ)さん。和漢にわたる蔵書家としても名高く、書庫を「擁書楼」と名づけて一般公開していたというから、本朝初の公共図書館だったのかも。
十六夜を「日記」に掛け、「雨降る」で月を大分弱められるのではと思いますが。如何。
後先顧みられてのご配慮感服いたします。また、該博さもまた句に厚みが出て誠に結構です。
通例、発句が秋では月の座を引き上げて、三句内で月を詠みます。月の無い秋を素秋と呼んで嫌うからですね。しかしこの一座では、月と花の座は、満を持して皆さんおられるわけで、ずらすと、人間関係を壊しかねませんので、御法度にちかい重みを各座は持っています。という次第で、古今の例ではいろいろありますが、ここは不易さまのお説にしたがい進行しましょう。

4,高名な文学者の家を夜訪れたのは、貴人の武者。焚きしめた高価な沈香の薫りを遺し死出の旅へと。『平家物語』巻七「忠度都落」のシーン。
平忠度(ただのり) 薩摩守 清盛末弟 寿永二年(1183)、平氏一門の都落ちの際、都へ引返して藤原俊成に自詠の巻物を託したとの逸話は名高い。一の谷の合戦で討ち死。
 さざ浪や志賀の都はあれにしを昔ながらの山ざくらかな(千載66)

千載集に「詠み人知らず」の作として載る。藤原為業(寂念)邸での歌合の時の忠度作として万人周知のこと。ちなみに、無賃乗車は、薩摩守と言われるのはこの御仁の名前から。
では、影左さま、月の定座ですが、秋以外の月をお願いします。裏六句には、花の定座もありますので、春もご遠慮して下さいね。

5,世界中で様々なイベントの夜の主役として打ち上げ花火が盛んですがなんと言っても日本の花火は季節感漂う風物詩です。
夏の蒸し暑い宵のひととき、浴衣と団扇と大勢の見物人。
打ち上げ花火は「菊」「牡丹」「スターマイン」ーーーそして、今は、「UFO」や「ドラえもん」など新しいスタイルも参戦して、その華々しさ、楽しさを競い合っています。その火の玉の空中戦が終わって帰る人々の頭上に何億年も前から天空から見下ろしている月の存在を見上げながら帰る人、気づかずに帰る人。やがて花火大会の会場となった古戦場は、夜更けの静寂に包まれます。
五句目 面倒な月の座を見事に切り抜けられました。まことに結構です。四句目が、さほど新展開を見せなかった分を補っていただきました。古戦場が、前句を取り込み繋がりも完璧です。では、次句を山穂さま、よろしく願います。

6,賑わう人々の群れから離れ、暑さ凌ぎに氷水など。心静かに氷の山を崩していきます。それは楽しみでもあり寂しさも伴います。花火の後の、祭りの後の空しさにも似ています。そこに白玉が現れると妙に愛おしさが沸いてきたりするものです。もう一つの戦いの場、静けさのなかで氷白玉と格闘する、そんな状況を表現したかったのですが...。
花火の後は、氷水で熱気を冷ます、ということですね。
闇に浮かぶ花火、氷と白玉の白、色彩の対比もきれいにいってます。
恋の呼び出しめいたなにやら艶めいた気分も感じられますね。
夏はこれにて終了、花の座が控えていますので、春はしばしお待ち願って、では、裏入りの七句、影左さまよろしく願います。

7,夏の風情のひと時は、妄想の夢へと膨らみ運命の赤い糸を手繰りますが、やはり、夢は夢、旅先の宿の隙間風に目覚めると空になった赤ワインのボトルがゴロンと。ボトルの中も冷たい風舞う木枯らしの季節・・・。
七句いただきます。夢醒めてのむなしさ、ですね。前句から突き放した展開がよろしいですね。恋句とみることもできそうですね。季節は冬となっていますが、季語は見あたらないようなんですが、雑が適当かと思うのですが?

8,赤い糸はたぐられ、いとおしく思ってくれる人がいたのですね。
前句の意を汲んで、冷えたで、冬としましたが。
次は、恋離れですね。そろそろ花の季節が後ろからやってきます。不易さまよろしく。

9,前句の手をたずさえる人から、自分でひとり手を暖める人に。遣句に近い情景句で失礼します。もうすぐ春(花)です、よって季も雑としましたです。お通し下されます様、平に平に。
結構です。なんとなく昔の歌謡曲を想い出しますな。
あぶったイカなどで、ぬる燗を。

10.降り立つ駅の前は海。折から、ヒューヒュー鳴る強風は春一番。浜辺からは大わらわの漁師の胴間声が切れ切れに聞こえてきます。
猛々しくなりましたが、花の句で鎮めて下されたく、山穂さまよろしく願います。

11,嵐は過ぎ去り、辺り一面咲き誇る花、花、花...。花のある処、人は溢れる人に酔い、美酒に酔い、乱舞する花に酔う。
風過ぎて花、人もまた花に酔う
と詠むものと推察いたします。花の文字が重なるのは問題ありません。 

12,前々句の風、前句の風。もう花狩人にとっては木が気でない。散り急いでくれるなと、あわてて出かけてきたのだが、生憎の雨に降り込められて出るもならず、よい宿なのだが腰が落ち着かない。
まことに結構です。このところ不易さまは、肩の力を抜いて、淡々とした人情路線を歩んでおられるように見受けられます。風情がありますなー。

13,これは、もう賄かお家騒動の密談でございますな。見て見ぬふりはさぞかし居心地がよろしくないでしょうな。
名残の表あたりは、あばれ処ですから、力強くいきましょう。
山穂さまよろしく願います。

14,怪しい場所からはさっさと抜け出すことです。あれ、急ぎ慌てて転んでしまった!着物が気崩れてしまい、着慣れていないのでお端折が巧く直せない。物事、本筋をしっかり捉えていないと、いざという時に役に立たないですねー。
結構でございます。テンポが大切でございます。

15,芸術の秋、食欲の秋。今も昔も成長期の子供はいずれも同じ。いつもいつもお腹をすかせ、足軽長屋裏あたりで秋の虫が鳴き始めると足軽の子等がリズムに合わせて木のお椀を叩く。
お端折した足軽の子供たちの情景が目に映るようです。

16,健康で元気であればあったでウザッたい子供たち。寝静まるのを見計らい、とっておきの一甕の封を切る。喧騒去った後の虫の音を肴に、ホッと人心地。子を寝かす と 寝かせた酒 をかけてみましたです。
結構ですな。マリーンズも勝ったし。喉がごくり。

17,月は満ちて来るのに、欠けているのは、いつもそこにいた影ひとつ。
子も寝て、お酒も用意してあるのに。空しい影にかわってすすきの穂影が。
月の後は、秋も更けて次なる季節へと移ります。

18,一人になっても、大勢集まっても命あるものは満ちては欠ける宿命に翻弄されつつ、秋の侘しさの中、冬の厳しさの中、日本人には季節の変化に寄り添って生きるこうした孤独な世界が好きな時代がありました。
寄せてはかえす磯の荒波に冬鳥たちの群れは鳴き声もたてずに飛び上がっては舞い降り,舞い降りては飛び上がっている。
字余りを取り違えて失礼しました。

19,「鳴かぬなら・・・。」で、信長にこじつけてしまいました。信長は家臣の忠誠心を計るために大事な茶器を与えたとか。はて、したり顔をしたのは信長か、もしくは家臣の方か。
十九句頂きます。山穂さまには珍しく故事に付けた句ですね。
では、ファイナルラップで、不易さまよろしくお願いします。

20,利休と秀吉の「朝顔の茶会」の話はつとに名高こうございますが、これは、その時にあったやもしれぬアクシデント、というお話。※さしもの利休さんも、早朝の寝ぼけ眼で朝顔の小さな蕾をひとつ摘み忘れてしまっていた。開花の早い朝顔、太閤さんが来た頃には綺麗に一輪咲いてしまっている。そうとは知らない利休さん、今日も猿殿をギャフンといわせてやろうと、茶室で手ぐすねひいて、したり顔。
蕪村翁には「西行は死そこなふて袷かな」というのがございます。西行さんも、きさらぎの望月の頃の花の下で、うまく死ねなかったら、今時分は更衣で袷を着ていることだろう。と、もしそうだったらを思い描いて楽しんでいます。川柳に近いものですが、諧謔と虚構は連句の楽しみのひとつでもあります。
偉大な先達に習ってのモノ真似で失礼します。また、前句に「顔」が出ているのと、朝顔の季は秋、紺は春季ですので、この位置ではどちらも拙うございます故、紫紺と色の名にして花の種類を限定せずにぼかしました。よって雑としたのですが、いかがなものでございましょうや。ご差配の程、由なに願い上げまする。
廿句、ちょっと苦しげですが。どう転んでも秋の七草(古伝)の朝顔のように見受けられますが、多分違う植物なんでしょう。ロッテがまた大勝したことでもありますからここはよしとして、では、次に進みましょう、なにせ松茸がかかってますから

21,雨があがって雲の切れ間から空がみえるのを水たまりから見たという変哲もな い句です。
空の青が前句とつなぐキーワードです。
では、次は花前、山穂さまよろしくお願いいたします。

22,ロッテの勢いにあやかりたいものです。気がつけばもう、出番が最後になってしまいました。次の巻では是非とも、初芝選手のように大輪の花を咲かせることを夢見て、花前、まいります。
空も晴れ渡り、春の訪れの喜びがあふれている。行く先は美しい花咲く世界でしょうか、日溜まりのなかへ、陽炎のなかへ。美しい女(ひと)も皆、そこへ引き込まれて行く。
花前頂きます。淡くおぼろげで控えめ、花の出番を待つ風情で大変よろしいです。が、恋の呼び出しでもありますね。匂いの花もここは少し艶やかにならざるをえません。不易さまよろしくお願いのほどを。

23,花陰でひそひそと囁きあう男女の声は、睦言かそれとも金の工面かはいざしらず、反対側の根方で午睡していた猫の耳だけが、人の気配にピクリと動いた。あわせるようにまた一片花びらが散る、うららな陽炎のなかの午後でした。
この猫は、散り敷く花の上に寝ているので、甚五郎作のブチよりは、御舟作「翠苔緑芝」の黒猫のほうがよろしいかと。
花の句上手に仕立て上げていただきました。
恋が呼び出されてしまったものですから、思惑通りとはいかなかったかもしれ ませんが、絵画的にきれいにまとまっていますね。黒猫は、枇杷とかには合いますが、桜となると、キティちゃん風の少し呆けた 虎猫とかが合いそうな気がしますが。
さて、〆の挙句です。影左さま気張ってひとつ。

24,ロッテ快進撃の三連勝!!!
さあて、挙句です。挙句なのか、松茸待ち句なのか分からない気持ちですが・・・。
人の気持ちと季節の巡りはいつもつながって現れるようです。
浮きつ沈みつ春の風とともに世間を漂う人の便りが春降る淡雪のごとくにいつの間にか消えたかと思われる頃に、卒業しました。進学しました。結婚しました。転居しました。このメールが飛び交う時代に、筆と墨でしたためられた手書きの手紙が、あなたの手元に向かっている。
私の出した手紙が、そろそろ着く頃、あるいは、待ちかねている手紙が届く頃なのに、季節だけは人の心模様におかまいなく移ろう期待と憂いが入り交じる春の気分です。
しみじみと、そしてときめき。
新生の春を軽快に挙句にしていただきました。
誠に結構です。
これにて露草の巻めでたく打ち止めでございます。
即、松茸付きふぐコース講評会に雪崩れ込みます。
ロッテ・阪神  30対2
露とおち露と消えにしタイガースなにわのこともゆめのまたゆめ
ロッテは強い。今日で決まりですな。