鶯の鳴き出での巻

一座四人  

発句  春 鶯の鳴き出で町が動き出す   浦霞 影左亭主  春 鮒の欠伸に田螺這い出る    小倉庵不易相伴  春 走り行く陽炎の窓に停留所   月夜野山穂四句  雑 岬めぐりの担ぎ屋のオババ   花見川涛青五句  秋 明月や家路を灯し宵包む        山六句  秋 ぬけがら衣虫鳴く湯殿         左七句  秋 秋時雨小磯の砂の虚貝(うつせがい)  易八句  冬 木の葉髪散り影ひとつ作る       山九句  春 うらうらと上がるひばりに事もなし   青十句  春 新入生が発つ日の名乗り        左十一  春 若枝の花一輪の凛として        青十二  春 遠音(とおね)につづく壬生の狂言   易十三  夏 蜘蛛退治キャンプの朝に糸光る     左十四  夏 観覧車から揚げ花火見ゆ        山十五  秋 顔伏すや灯燈す棚の菊人形       易十六  秋 俤淡し蜉蝣(カゲロウ)の女(ひと)  青十七  月 月の出を雲と霞みの落とし文      左十八  冬 しとねを去りて紙衣を纏う       山十九  雑 一つ家に灯り恋しき山路かな      青廿   夏 風吹き上ぐる夏蕎麦の畠(はた)    易廿一  冬 湯気踊り前掛けも舞う歳の暮れ     山廿二  春 孫のままごと春をもてなし       左廿三  花 遅き日のしずしず流る花の下      易廿四  春 今年もまたハー雪囲い取る       青

解説がないのは、かえって想像力を刺激して、見る人、各人各様、解釈さまざま浮かび、一巻がふくらみをもちます。

表六句を庵の柱にかけおく。