自己解釈
評者 涛青
猩猩の巻
1 猩猩は中国の架空の幻獣。人語を解し酒好きといわれる。深閑とした木立の間にふと響く物音、清澄さを増した空気を震わせカンと余韻を曳いて響くあの音は、秋の深まりに気づいた猩猩が、あわてて柄杓でも落としたのであろうか。(不易)
2 故事には故事でこじつける。猩猩といえば大瓶から大酒を飲むことで知られる。司馬とは、中国の北宋の政治家司馬光が、幼少時瓶に落ちた友達を瓶を割って助け出し、その知恵をほめられた故事。瓶の中の酒に月が映って風流だが、楽しめるのは司馬のように瓶を空にする誰かがこないうちですよ、客を迎えた喜びを出した。(涛青)
3 収穫期、葡萄を独り占めしようとして丘の上から様子をうかがっていた葡萄泥棒。自前の葡萄酒で友人と飲むのを企んだが。晴れ渡る秋の空の下、ついついうたた寝してしまい、愚かにも留まることなく転げ落ちて行ってしまった。(山穂)
4 つい,うとうとと寝入ってしまったが、突然の雷の音に驚いて葡萄畑に転げ落ちてしまった葡萄泥棒。畑の地面で目覚めると、蟻たちが雷雨を予感してか、慌て急いで家路に急ぐようだ。(海市)
5 遡上する鮎を漁りに来た川漁師。時じく春の嵐になすすべもない。川を思い切り増水させて降る雨。雷光の下に激しく降りつづく。川虫もどこぞに引っ込んだのやら。大河に余る、漁師の身にも余る、自然の驚異。鮎は夏だが鮎汲みは春の季語。(不易)
6 大文字焼きは京の夏の風物、先日の雨で増水した鴨川べりの床で仰ぎ見る主人公。孫娘のすらりと伸びた白い脚に、蹴出しからのぞいた芸者の脚がふと浮かび若き放蕩の日々を思い苦笑する。あおぐは、仰ぐ、と団扇で扇ぐの意を掛けた。(涛青)
7 好々爺がふと思い出した芸者がまだ舞妓だった頃の事。稽古に勤しみ、立派な芸奴を夢見る日々であったが、いよいよその日も近づいてきた。少女から大人の女へ変わる時。愛しく想う人も胸に秘め、厳しい花街の世界で生きて行かなくてはならない。しかし、うなじには幼さが残り、襟を抜いてみてもまだ様にならない。(山穂)
前句の恋の呼び出しを上手く受けました(執筆)
8 今は亡き父の言葉をかみしめる。その父のことがしきりに思い出される。(海市)
9 父の言葉が分かったころは、もう遅い。(涛青)
10 朧夜に擦れ違う人は昔の遊び仲間。零落すれば見向きもしない人の世の常。(不易)
11 擦れ違ったは、昔の恋人か。妻との花見は、いまさらいうこともなし。(涛青)
12 花も嵐も乗り越えて女は、妻は強くなる。ヒースの強くて愛らしい花は嵐が丘に咲き乱れる。花一面の丘で、ピクニックをして戯れているのは可憐な乙女達。(山穂)
ヒースの花はいつ咲くのやら。夏のような気もするが。ここは野の花とみればよろしいのでは。(執筆)
13 ヒースは春秋咲くので、秋のヒースに置き換え。またヒースは荒地によく咲く花で、スコットランドにも分布する。麦の取り入れも終わり、新酒の仕込みが始まる。秋の収穫と新しい酒の出来を祝い、祈るリベット川流域の村祭り。乙女らも今日ばかりは無礼講。乙女らの笑い声に祭りであることに気づいた旅人。それにつけてもグレンリベットは旨いですぞ。(不易)
14 秋祭りには、畑や庭先でたわわに実ったリンゴを使った、手作りジャムのコンテストがある。「母さんのジャムは、今年も最高の出来!」と少女が得意げに大きな瓶を抱えて行く。それにしても、英国のジャムは何であんなに美味しいのでしょう。(海市)
15 ママの手作りのジャムを持ち、ドーヴァー海峡を渡る人には何か決然とした意志を感じる。もう帰ってこないつもりかしらん。兵士かはたまた亡命者か。次ぎの人にまかせましょう。この辺で英国とはお別れです。秋の句が出たので月の座を引き上げました。(涛青)
かなりの字余りだが、カタカナはどうしてもこうなる。そこで、提案ですが、英文は、パソコンのように半角2文字を1字とカウントしてはどうか。ドーヴァーはDoverで、2字半ですんなりいく。(執筆)
16 沖合の漁り火は、荒海の北海を越えドーヴァーまで魚群を追って来たノルウェーの漁船でもあろうか。荒涼たる月下、ドーヴァーの高嶺颪の浪に揉まれながら生業を遂行する漁師の気概を詠う。(不易)
17 オーロラを追いかける夢をみた遥かな日々は、白夜の彼方に続いているのだろうか。思えば遠くへ来たものだ。少年の日の思いは強く、とうとう世界を駆けめぐる探検家になってしまった。...植村さんも、異国の地で少年の日を思い起こすことがあったのでしょうか。(山穂)
18 探検家の夢は実現した。しかしオーロラとは縁も縁もない新大陸。大アリ喰いが道を塞ぐ。何でここでアリ喰いなのかは説明できない。しかし困難は探検家にはつきもの。(アリ喰いは、アフリカ?南米?どこだっけか)暖かい地なので、季節は夏でもいいんだろうか?グローバルな展開になると、従来の季語では太刀打ちできないな。(涛青)
19 一発の賭に出て、南米での黄金郷を目指すが行く手には大アリ喰いが。子供の双六にアリ喰いに会ったら3つ戻るというのがあったようなないような。(海市)
20 金塊探しも新天地開拓も失敗。掴み損ねた千金を追って、懲りないギャンブラーはゴールドラッシュからタイムトリップしてディズニーランドへ。朽ち果てたギャンブラーが、ビッグサンダーマウンテンをゴールドラッシュと間違えて、順番待ちしている姿が滑稽でもの悲しい。(山穂)(探検シリーズはこれにて大団円をむかえました。執筆)
21 最後の一杯と勢いよく仰ったグラスを不覚にも掴み損ねてしまった。こぼれた酒は、特注カクテル「ビッグサンダーマウンテン」。飲み過ぎにはご注意を。「未練酒」はあと一杯あと一杯とグズグス飲んでいる酔っぱらいとも、去ってしまった人を忘れられずに飲む自棄酒とも。「不覚にも」「グラス」に映るのは、あの人の面影か、故郷のあの山か、己の越し方か。次の人のためにも選択肢を広げてあげましょう。言い切ってしまっては二の句が次げません。(不易)
22 花前
春恒例の人事異動で、寝耳に水の地方転勤。都落ち。東下り。まだやりたい仕事もあったし、飲み交わし語り合う友も得て、想いを寄せるひともいたのに。かの地にも、せめて、腹を割って語り合えるような人物がいるであろうか。(海市)(花前だから春にしてほしかったんだけど。まあいいでしょう。執筆)
23 花の座
花の下で楽しんでいた主はどこにいったのか。はらはらと花が降りかかる三味線と男物の笠を放り出したまま。二人は親密な間柄に相違ない。友はいるのですよ。(涛青)
24 挙げ句
日は暮れて、人は過ぎても花は散り敷く。一片ごとに春が深まる。前句のお二人をまともに受けると、上質のエロチシズムさえ感じさせる大団円。長丁場の一巻成就を祝ってのご祝儀句。(不易)
振り返ってみると、数々の傑作、力作、迷作に苦肉の作と様々でしたが、過ぎてみれば楽しい一巻に仕上がったのではないでしょうか。皆さんご苦労さまでした。