自己解釈
評者 山穂
迷い猫の巻
1
「春風」「木の芽」と季が重なるが、古今集「霞立ち木の芽もはるの雪降れば・・」等、重ねた用例も多い。まずは席入りの正客の挨拶。春風に誘われて芽吹いた幼葉に、珍しげに戯れる仔猫の愛らしい仕草に、春の訪れと明澄な浅春の長閑さを詠う。
2
脇は亭主の挨拶の位置。同季、同時刻につくるがよし。鴨は冬だが「引っ越し」と続けて季は春。句頭の感嘆動詞が意表をく。「アレ」「アゼ」とあ音の反復でリズムを付けた句作りが突佳。畦行く仔鴨と仔猫の対比も面白い。
3
春をもう一句続けたいところで、「草餅」としたが「田植え」に引かれて季は夏。一家総出の年中行事。向かいの畦には、これも一家総出の鴨の引っ越し。人の家族と動物の家族との二重写しが微笑ましい。繁忙な中にも長閑な田園の景。
4
四句は子細に拘らず早く速やかに。月に併せて季移りで雑としたが、遣句でかわす苦しい展開。小休止の家族を呼ぶのは、悪い知らせか良い知らせ化、はたまた単なる挨拶化。風が邪魔する。または、風の日は決まって故郷のあの日を思い出す望郷感。
5
田園から海浜に場を移す転調の句。特別断りがなければ秋
の月。風向きを測り潮時を知る。出航を前に大きな月が洋上に架かる。前句から、少々風は強そうだが、潮路は快適と判断したようだ。この船(艇)いったい何処へ向かうのだろう。次句への広がり。
6
出航前から帰帆の船に置き換え。早めの月がマストに架かる、明日の漁の潮目を知る。船中か漁村の屋か、蔬菜ながらも楽ししい一家の食事。採れたての旬の魚の美味しそうな匂いもする。子どもたちの賑やかな声も聞こえてくるような句姿が心地良。
7
一家団欒の食事に、夫婦の隙間に入ったわずかな亀裂を修復する体。軒の干し柿の糸を結び直すように、ほつれた絆を家族のささやかな幸せの中に思い直す倦怠期のご夫妻。秋刀魚に柿と物合わせの様だが、複雑で微妙な心理を秘めてまあ佳としよう。
8
はや秋から初冬。軒に下げた柿も重くなった。糸も晒され弱くなったよう。結び直すその先に、風花が舞いはじめたる正月にはこの柿も美味しくなるだろう。「待つ」「舞う」の句尾の打ち止めが力強い句姿の仕立てに。小気味よいまとまり。
9
正月は子どもにとっても楽しみだが、この子はどうやら夏の子。寒いのは苦手らしい。風花の舞う時期には早くも楽しい夏休みを思い浮かべる。七夕、川遊び、青い海。来年は何処へつれていってくれるのだろう。屈託ない幼子の夢は風花に乗って暮れ。
10
肩の縫上げをおろすと童女から成人へ。灌仏会は606年に元興寺で行われたのを初とする釈迦の降誕祭。花祭の元称。季は春前句の響に承応した匂い付けの秀句。静かに散りしく春の情緒が、着飾った子どもたちの景色と溶け込み、静謐で芳しい。
11
花の下なる乙女子たちの内に、昔日のきみが面影を偲ぶ。あどけなきも甘酸っぱい遠き日の想いが蘇る。花前の「灌仏会」の心遣いに素直に応えた思いつき、否、想い付け。明るい清澄さとゆつたりとした惜春を詠う。猫の山穂、字余りの濤青、路地の不易に続き、花下の海市となりうるか。得意の「花の下」。
12
よく似た人に出会った動揺。もう忘れた筈なのに。花冷えもあろうかと仕舞わずにいた炬燵も不用。春だというのに、置き処のないのは炬燵ではなく、己の身の処し方か。つくねんと花を見る独り身の人物。次は裏入り、倦怠と述懐では些か重いか。
13
今日もまた午前様!家族が寝静まった家の中で、又も独りで食べる遅い夕食は今日もお茶漬け?ため息付き。箸置相手に語りかけるが返事は無し。父の身の置き所も無し。世のお父さんは大変です。
14
「心も身体も疲れた時は、青い海原と白い波の揺り籠でまどろむのが一番! 心も体もリフレッシュ、トロピカルリゾートで家族も大満足です。」ダメかな?
海
15
「今年はえろう暑うおましたな。当家には秘蔵の棗がおましてな、南蛮古渡りでっせ。南国のルソンからはるばる海を渡って来ましたんや。それを袋から出しましたらなんとまあ、じっとりと汗かいておますのや。暑いはずでんな」青
16
「気が付けば季節は巡り、頬に触れる風も変わり、教えてくれる。夏の広い海原を回游していた鰯の群れも高くなった空の彼方。雲となって悠々と大空を泳ぎ回って
いる。」山
17
「風が出て来た。夕焼けに赤々と空を焦がした鰯雲も散り散りに。月の光りは隈なくて、地上に憩う万物を照らす。地上の影が濃いほどに月の明るさが際立つ。初秋の月には冬の月にない柔らかな優しさがある。あの鰯雲たちは何処へ行ったのだろう」易
18
「月影に包まれた村の一軒、アレ、あれは、コオロギの音だ、いや空耳か、と、
秋の訪れに、一瞬家人は話をやめて、耳をすます。視覚的な情景の前句に、聴覚で対
比させました。気色付け」 青
19
「つい話に夢中になって歩いてきたお二人。ふと気付くと、ここは名にしおう鬼
の出没すると噂の戻橋。美しい女人に化けて出ると云う。橋桁で鳴くコオロギの音に
、さては出おったかと一瞬話がとぎれる」易
20
「怖いもの見たさで、橋の向こうには鬼が住むという都の外れに やって来た雷神の子供たちだが、音がしただけであっという間に 雨雲へ逃げ帰ってしまったよ」海
21
「遣り句です。孫が来て嵐のような1週間が過ぎ、わーと騒ぐ声が しなくなると朝の食卓も二人では侘びしいものがある。老いの侘 びしさがひしひしと感じます」青
22
「九重(ここのえ)は禁裏、または帝都のこと。ここへ来て幾年が過ぎたのだろう。はや、この春も過ぎ行こうとしている。殿上に在りし時には手狭に思えたテーブルも空しく広い。妃とともにふと仰ぐ窓越しの空。廃帝の目に映る都の方角には、今日も春の霞がたなびいている」易
23
「春の日の姫君の輿入れはそれは華やかで立派であった。御行の行く先にちりばめた花びらが見事な薄紅の絨毯となり、姫君を祝福しているようだ。幼き姫の頬も同じように薄紅色に染まっている姿がなんとも美しく愛らしい」山
絨毯という言葉がいにしえにはそぐわないのではと思い戯れに解釈を変えてみると「花のかんばせくれないに染むるは一面に散り敷かれた桜花の薄紅色かはたまた恥じらいの色か。いにしえの大宮人のお輿入れの時も今と変わらぬ乙女のときめきは頬を染めさせていたであろうよ」執筆
24
「希望と不安に胸膨らます進学。桜の散り敷く新しい学び舎の庭で、知り合ったばかりの新しいの友との語らいは、新鮮で心はずむ」海
前半ほったらかし、後半再開後は、一気に進行。やはりスピードがあがるとリズムがよいようです。執筆・涛青拝